2015年03月16日

5区案による30万人規模最適の否定は「こんな試算、やらない方がマシ」を示す

 2010年、当時、大阪府知事だった橋下氏が、大阪都構想の主張を始めた時、特別区の規模は、30万人程度、大阪市を8〜9の特別区に分割するとしていました。

 こういった彼らの主張を正当化するため、大阪府に有識者による大阪府自治制度研究会(2010年4月〜2011年1月)を設置し、とりまとめを行いました。(有識者の研究会と言いながら、実際は知事の意向を受けた府職員が、事務局として検討資料の作成を行い、議論の方向性を作りました)

 この中で、基礎自治体(市町村や特別区)の最適規模についても議論を行い、30万人規模を最適としました。

 意外かもしれませんが、住民と市長の距離感(=行政への住民の意見反映)についての議論はなく、主には、次の資料から、住民1人当たりの行政経費(言い換えると、市の予算額)が、最小になるのが30万人規模だとして、30万人規模を最適としました。
01適正規模(大阪府).jpg
02適正規模(全国).jpg
元データ 元サイト

 つまり、30万人規模最適というのは、「住民と市長の距離感」の最適ではなく、行政経費が最小になるという意味で、最適規模が主張されたのです。

 当時の大阪市の住民1人当たり行政経費(=市の予算額)が約60万円、それに対して30万人規模市の平均的な住民1人当たり行政経費(=市の予算額)が約30万円なので、大阪市を30万人規模の特別区に分割すると、行政経費が大幅に圧縮されるのだと主張されました。

 この考え方は、2011年1月に発表された、大阪維新の会の統一選マニフェストにも反映されていて、資料編の中(元データ 2011年1月27日のダウンロード版)で、人口1人当たりの行政経費は、大阪府+大阪市が約88万5千円、東京都+23区は76万8千円で「仮に、東京都制と全く同じ仕組みにして行政サービスを提供すれば、1人当たり117807円安上がりになり、大阪市の人口を260万人とすると3063億円の財源が生まれます」「これが成長戦略の原資になります」と主張されています。


 この話が変わってくるのが、橋下氏が大阪市長になった後の2012年11月の区割り案発表で、それまで8〜9の特別区とされていたのが、5区案と7区案となりました。(なぜ、変わったかの説明はありません)
 5区案は45万人規模、7区案は30万人規模と呼称されていましたが、大阪市を260万人として、5区案は平均52万人、7区案は平均37万人です。
 7区案は、30万人規模より2割ほど大きくなってしまいましたが、一応、30万人規模最適を継承する案と目されていました。

 それが、翌年の2013年12月、区割り案の検討をする中で、7区案は5区案より年間170億円のコスト高(再編コスト39億円、職員体制再編効果133億円の差)(参照:大阪都構想財政シミュレーションを見てみた(その1))で、なかなか黒字化できないとされ、橋下氏らは5区案を採用するとしたのです。(法定協議会での5区案決定は2014年7月)

 さて、ここからが本論です。

 元々、30万人規模にすれば大幅にコスト削減できるとして、30万人規模が最適と主張されていたはずが、「7区案(37万人規模)ではコスト高だ!」として、5区案(52万人規模)とされたのです。
 そして、なぜ30万人規模最適の試算が否定されるのかの検証も、特にされませんでした。

 2年の間に、試算の精度がどんどんと上がり、変わってきたのなら当然ですが、実は、そうとも言えません。

 2011年の30万人規模最適の試算は、予算全体を、住民1人当たり行政経費を基準として試算したものです。
 つまり、予算全体を、住民1人当たり(他の同規模市の平均の)行政規模で試算するという方法です。

 これに対して、5区案に決定した2013年の試算は次のようなものです。(現在、説明されている試算も、この2013年試算の細部を手直ししたもので、基本は同じです)
(1)3項目(システム経費、事務所経費(=ビル賃料)、議員経費)を、業者見積りなどで試算 → 歳出額の1%部分
(2)職員数を中核市5市(豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市)の住民1人当たり職員数を基に試算。(法定業務の追加部分は補正。7区案は30万人程度の中核市の職員数を参考に補正) → 歳出額の約1割部分
(3)残りは、特に試算せず、5分割しても「増減なし」として算定 → 歳出額の約9割部分

 つまり、5区案・7区案の3項目1%部分を無視して考えると、
〇2011年の30万人規模最適の試算は、予算全体を、住民1人当たり(他の同規模市の平均の)行政規模で試算。
〇2013年の5区案・7区案の試算は、予算全体の約1割の人件費部分のみ、住民1人当たり(他の同規模市の平均の)行政規模で試算し、9割部分は試算せず「増減なし」として算定。
・・・ですから、「住民1人当たり(他の同規模市の平均の)行政規模」という試算方法が正しいなら、予算全体に適用して試算してる「2011年の30万人規模最適の試算」の方が、予算の1割分のみに適用して、9割部分を試算しない「2013年の5区案・7区案の試算」より、試算の大枠としては精度が高いはずなのです。

 「2013年の5区案・7区案」を正当化する説明としては、
〇「2011年の30万人規模最適の試算」では中核市・特例市の区分をしていなかった。中核市並みの特別区の業務範囲で考えると、これで正しい。

・・・というのがありますが、次の理由であまり納得にいくものとは言えません。

〇中核市と特例市の業務差によるコスト差は、概ね3%程度(元データ 元サイト)で、「30万人規模最適の試算」の大幅な経費削減が、なぜ無くなってしまうのかの説明にならない。
〇中核市と特例市の業務差が、大幅なコスト増を生み出しているなら、特別区の業務範囲を特例市並みにした場合の検討が、されるべき。


 「住民1人当たり(他の同規模市の平均の)行政規模」という試算方法が正しいなら、「2013年の5区案・7区案の試算」より「2011年の30万人規模最適の試算」の方が、試算の方法として正しく、試算の精度も高いはずなのに、「2011年の30万人規模最適の試算」の方法で、試算すべきという声はありません。わたし自身も、試算すべきと思いません。

 「2011年の30万人規模最適の試算」より「2013年の5区案・7区案の試算」の方が、全体としての妥当性が高いなら、その理由は、僅か1%の3項目の試算などより、全体の9割を試算せず「増減なし」にしてることによるのでしょう。

 つまり、「2011年の30万人規模最適の試算」より「2013年の5区案・7区案の試算」の方が、全体としての妥当性が高いなら、それは、9割部分を「住民1人当たり(他の同規模市の平均の)行政規模」で試算するより、まだ、試算せず「増減なし」にしてる方が、マシだと思っているということです。

 大阪市の現在の行政サービスの特別区担当部分・年間1兆3千億円部分を、5つの特別区の区役所で、それそれ規模を小さくして実施した場合のコスト増減は、大阪都構想を考える時、大阪市民にとって、決定的に重要です。
 僅か1%の見積り誤差が百億円単位のコスト増減となり、住民サービスを維持できるかに直結するからです。

 大阪市民が、大阪都構想の是非を考えるなら、数%の誤差も無いように、特別区が担当する業務を、現在のまま実施するために、どれだけの経費や職員体制が必要か、しっかりと積み上げた試算が必要です。

 もし、「住民1人当たり(他の同規模市の平均の)行政規模」で試算するなら、その試算結果によって「特別区が担当する業務を、現在のまま実施できる」という、その試算が正解だというところまで必要なのです。

 失敗公共事業でよくあるような、事業を正当化するために、それらしい数字を並べただけの試算を作って、「財政推計では、黒字になるという試算が示されている」では困るのです。

 現在、「2011年の30万人規模最適の試算」より「2013年の5区案・7区案の試算」が使われています。
 それは、大阪市民に「こんな試算なら、試算などしない方がマシ」レベルの試算しか示されていないということを示しているのだと思います。


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posted by 結 at 03:42| 記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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