これに対して、橋下氏は「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」と反論をされました。
以下は、2015年2月7日の橋下氏のツイートです。(元ツイート)

ただ、橋下氏が反論するように、「(大阪都構想で大阪市から大阪府へ移管される財源)2200億円は、特別会計で管理し、都区協議会がチェックするので、大阪市域外に流れないようになっている」とするには、いくつもの矛盾があります。その矛盾を整理しておきます。
(1)財政調整特別会計についての特別区設置協議会での説明で、「大阪市域外に流れないようにする」など触れられてもいない
こちらの記事「財政調整特別会計についての特別区設置協議会での説明」に、特別区設置協議会で、2度、財政調整特別会計が取り上げられた際の議事録の該当部分を抜き出しましたが、見てもらえば分かる通り、「大阪市域外に流れないようにする」など、何も触れていません。
(2)調整財源を府の一般会計に入れてしまっては意味がない
橋下氏の説明では「特別会計で管理しているので、大阪市域外へは流れない」としています。
これは、「2200億円の移管財源を、一般会計で他の財源とごちゃまぜにしてしまうと、何に使われたのか管理が困難になる。2200億円の移管財源を、特別会計で別に管理をして、どこに使われるのか、きちんと分かるようにして、大阪市域外へ流れないように管理する」という意味だと思われます。
でも、それならば、特別会計から大阪府の各事業へ直接に予算配分を行い、「どこに使われるか、きちんと分かる」ようにしないと意味がありません。
特別区設置協議会で、財政調整特別会計は、次のように説明されています。(元データ、元サイト)

大阪府分の調整財源は、一度、大阪府の一般会計へ繰出すとしています。そして一般会計で、各事業へ予算配分をするのです。
この仕組みでは、調整財源が何に使われるかは、一般会計で他の財源とごちゃまぜにした結果を追いかけることになります。
他の財源とごちゃまぜになる一般会計で、調整財源が何に使われるのか追いかけるのでは、特別会計に分けた意味がありません。(一般会計に混ぜてしまっては、使途の管理が困難だから、特別会計で管理するとしたはずなのに。)
つまり、財政調整特別会計から一般会計へ、調整財源を繰出すとしているのは、財政調整特別会計が「調整財源が大阪市域外へ使われないように使途を管理する」という制度設計になっていないことを意味しています。
「特別会計で管理しているので、大阪市域外へは流れない」という説明は、財政調整特別会計の実際の設計と掛け離れています。
(3)財政調整特別会計は2200億円の一部しか管理しない
橋下氏が説明するように「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」なら、当然、2200億円全体を特別会計で管理しているはずです。
でも2200億円のお金の流れは、次の通りで、実際には半分しか財政調整特別会計を通りません。(詳細及び注意事項など次を参照:財政調整特別会計は大阪市から移転される2200億円の一部しか管理しない)

2200億円のうち、特別区を通るのは半分の指摘に対し、ABC朝日放送「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」2015年3月7日放送分で、大阪市特別顧問の佐々木信夫氏が、残りの721億円は借金の返済と説明されていましたが、「借金の返済」(=既発公債の償還原資)は、調整財源を充てることも普通に想定されています。
関連資料は、次の通りです。
(A)第13回法定協議会での公債管理特別会計と財政調整特別会計の関係を示す資料。(元データ 元サイト)

(B)特別区設置協定書(案)より。(元データ 元サイト)
(四)大阪市債の償還にかかる財政調整財源の負担
「大阪府が負担する額については、財源配分並びに大阪府及び特別区間の財政調整を通じて財源を確保する」
(4)2200億円が大阪市域外へ流れないように、都区協議会がチェックするようにはなっていない
橋下氏は「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」と説明しますが、都区協議会が財政調整特別会計に関わるといっても、調整財源の配分をどうするかの協議が主で、調整財源の使途を勝手に決めたり、調整財源を自由にできるという意味ではありません。
「都区協議会がチェックする」なら、財政調整特別会計についてのルールが決められており、そのルールから逸脱した運用がされていないか「チェックする」ことになります。
つまり「大阪市域外で使ってはならない」というルールが決まっていなければ、「チェックする」ことはできないのです。
「調整財源(より正確には、2200億円の移管財源)を、大阪市域外で使ってはならない」というルールは、協定書案にも、過去の特別区設置協議会での検討事項にも見当たりません。
協定書案で、都区協議会の協議事項は、次の通りとされていますが、調整財源の使途監視のようなことは、何もありません。(元データ 元サイト)
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
また、大阪府・特別区協議会の処理する事務については、(中略)特別区財政調整交付金に係る条例を制定する場合において大阪府知事に対して意見を述べるほか、以下に掲げる事項を基本に、特別区の設置の日以降、大阪府知事と特別区の区長の協議により定めることとする。
・大阪市から大阪府が承継する財産の事業終了後の取扱いの協議
・大阪市から大阪府が承継する株式及び出資による権利の処分並びに貸付金債権の償還による収入などの取扱いの協議
・大阪市から大阪府が承継する財務リスクの解消時の残余財産の取扱い及び引当財源が不足する場合の財源の捻出、特別区の負担方法の協議
・大阪市から特別区又は大阪府が承継する事務に関して、特別区の設置の日前の要因による損失の発生が特別区の設置の日以降に新たに明らかになった場合の財源の捻出、特別区の負担方法等の協議
・特別区の設置の日以後の事務の分担に関する取扱いの協議 等
--------------------------- 引用終了 ---------------------------
例えば、大阪市の財産については、特別区設置協議会での過去の検討の中で、「市民が長い歴史の中で築き上げてきたもの」「広域自治体への承継は必要となるものに限定」「財産の事業終了後は都区協議会で協議」ということを明確に謳います。(元データ 元サイト)
これを受けて、協定書案でも、都区協議会の協議事項として「大阪市から大阪府が承継する財産の事業終了後の取扱いの協議」としているのです。
財源については、こういった大阪市民への帰属の理解など何もなく、だから事業終了時に財産の協議はあっても「大阪市から大阪府が承継する事業の終了後の財源の取扱いの協議」は無いのです。
だから「調整財源(より正確には、2200億円の移管財源)を、大阪市域外で使ってはならない」といったことも決められておらず、都区協議会がチェックするようにもなっていません。
ここまでの(1)〜(4)の状況を見る限り、協定書案やこれまでの特別区設置協議会での検討過程は、橋下氏が説明するような「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」にはなっていません。・・・というか、「2200億円は、大阪市域外には流れない」ようにする制度設計の痕跡すら見当たりません。
結局、藤井聡氏に「年間2200億円の大阪市民の税金が市外に『流出』します」と指摘され、橋下氏としては、その指摘が、とても都合が悪かったので、(そんなこと、それまで全く考えていなかったのに)「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」と主張したというのが、一番妥当性が高いように思います。
もしかして橋下氏は「2200億円は、大阪市域外には流れない」と言ってしまったから、制度的無理はあっても、何か体裁だけは整えようとするのかもしれません。
でも、体裁だけ整えるような「2200億円は、大阪市域外には流れない」なら、例えば、現在の大阪府の大阪市内施設の経費を全部リストアップしてきて、「とにかく、大阪市内での支出に2200億円は使ってるよ」となる可能性が十分あります。(というか、一般会計でごちゃまぜにする以上、そういうピックアップでないと、かなり困難です)
このような方法で、移管財源を「現在の大阪府の大阪市内分支出」に充て、それで浮いた大阪府の財源を(大阪市域外を含む)他の使途に充てることを、藤井聡氏は「ロンダリング」と呼び、実質的に市外への市財源の流出になると指摘しています。
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